もはや疑問に思うことすら忘れていたであろう、当たり前のように日々使うコミュニケーションのひとつとして「言語」があります。さて、この言語ですが、一体どのようにして生まれたのでしょうか?実はこの問いに対して、進化論が生まれた19世紀から存在していたものの、長期に渡り科学的検証の難しさから研究分野として大きな流れになることはありませんでした。しかし近年になり、言語学や脳科学、心理学、生物学などの発展に伴って、多くの研究者がこの難問に挑み、言語進化論というひとつの学際的な分野を形成しました。

この問いへのひとつの答えとして、ヒトの言語は、もともとは動物の鳴き声のようなものであって、それが使われる過程で複雑化していき、そして現在のような形になったいうことが考えられています。しかし残念ながら、この問いはそう簡単なものではありません。ヒトの言語と動物の発する声を比べると、そこには単に複雑さの度合いではない、本質的な違いが存在しているのです。

ヒト以外の動物の発声は、ヒトに系統上近いとされているチンパンジーやボノボのような類人猿であっても、意図的にコントロールされたものではなく、感情によって表に出るものや外からの刺激に対する反応です。一方、ヒトは刺激に対して、思わず声が出てしまうという場面ももちろんありますが、通常は発声をコントロールし言語を産み出します。よって、同じ音声といってもヒトと動物のそれらは似て非なるものであり、そこに進化上の連続性を求めることは難しいのです。

では、ほかの見方はあるのでしょうか?

マイケル・コーバリス(Michael Corballis)などの進化心理学者たちは、「言語はジェスチャーから進化した」という興味深い説を唱えています。

言語というと、まずは音声言語を思い浮かべますが、手や顔の動き、またその位置関係を使う手話も、主にろう者の間で広く用いられています。手話は、音声言語を身振りに置き換えたものとよく誤解されますが、各手話には手の位置や形、また動きの独自の組み合わせがあり、そのようにつくり上げられたサインを変化させたりすることで、音声言語と同様の複雑な構造をなしています。さらに手話を使うとき、大脳左半球のブローカ野と呼ばれる、言語を司る領域が活性化することも分かっており、手話話者が大脳左半球を損傷すると、音声言語の失語症に相当する手話の障害が起こります。これらの事実から、音声言語も手話言語も、脳内の基盤となる能力は共通していると言え、もともと言語が、ジェスチャーから進化してきたという説も妥当性を帯びてくるのです。また、発声をコントロールできないヒト以外の霊長類も、手と前腕は大脳皮質の高次中枢で制御されているため、意図的な制御が可能であり、グルーミングなどの他者に向けたコミュニケーションの手段として使われます。ここにも原始的な言語の萌芽が見られるといえますね。

それでは、ジェスチャーが言語の起源だとすると、そこから音声言語へは、どのように変わっていったのでしょうか?500〜600万年ほど前、現在のヒトの祖先はチンパンジーやボノボへとつながる系統と分岐し、二足歩行を始めました。これによって、それまで不可能だったことが可能になるようになります。まずは手が自由に使えるようになり、多彩なジェスチャーを行うようになったはずです。さらに、二足歩行は喉頭の降下を引き起こし、それまで不可能とされた、さまざまな種類の発声が可能となりました。ジェスチャーには発声が伴うようになり、徐々に暗闇でも使える音声中心の情報伝達へと移行していくことになります。音声言語の誕生によって、手が情報伝達の役割から解放されて、道具なども作り始め、そして芸術が生まれ、ヒトは高度な文化を発展させていったと考えられます。

皆さんは話しているとき、自分の手や腕がどうなっているかを意識したことがありますか?もはやそこにも、進化の痕跡が見られるのかもしれませんね。

というわけで、今回は言語のはじまりについて紹介しました。普段何気なく使っている言語も、探っていけばとても興味深いものですね。長い歴史で進化してきたものだと思えば、今までより少し見方が変わるかもしれません。

最初は共通語だったはずの言語が、どのようにして今日まで広がる世界各国それぞれの言語へと派生していったのか?それは、いつ?なぜ?

ひとつの疑問が生まれると、それに付随してどんどん疑問が湧いてくるのも、言語の面白いところです。

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